Web 記事 - ベリー接続カテゴリのエントリ
よって、ぐるぐる回してもとに戻る過程はSO(3)の閉曲線をつくることとなります。一気に3次元だとちょっと難しいので2次元での回転つまりSO(2)から考えてみましょう。つまり地面の上に張り付いたアリやぎっくり腰で高さ方向の自由を失った人をかんがえるわけです。このときは、右回りに1回る操作と2回る操作、3回,4回、、、左回りに1回、2回、、、という操作はすべて別な操作で、連続に変形できないことはよく理解していただけると思います。このぐるぐる回す過程は3次元では2種類しか本質的にないというと皆さんおどろかれますか?さしあたっては、以下の絵でたのしんでみてください。
くわしくはまた。
From "Spinor and space-time" R. Penrose & Q.Rindler
時間反転な系特有のクラマース縮退は4元数(Quaternion)により自然に記述されます。[Y. Hatsugai in Focus issue in topological insulators :NJP] [論文直接]
一般に波動関数の位相の不定性はベリー接続に U(1) のゲージ構造をあたえますが、クラマース縮退のある場合、それはSp(1)ゲージ構造となります。また、ベリー接続の特異点を与える偶然縮退は一般にはDirac単磁極を与えますが、時間反転不変な場合、この特異点はYang のSU(2)単磁極となります。この例のように Sp(1)=SU(2)の同値性に基づくと時間反転不変な系でのベリー接続はSU(2)ゲージ理論の一つの実現をあたえることとなります。
ここで通常の複素数を四元数(Quertenion)に読み替えることにより、時間反転を持たない場合と持つ場合がアナロジーを越えてマップとして自然に読み替えられることとなります。ベリー接続のゲージ固定条件を考えることにより、非自明かつ自然な次元は複素数、四元数の基底の数により規定され、それぞれ2次元、4次元となります。対応して位相不変量はそれぞれ、2次元、4次元球面上の第1,第2チャーン数であたえられ、その量子化は1つ次元が下の赤道上、1次元閉曲線上の回転数、3次元球面上のポントリャーギン数の量子化に帰着しますが、これは特定のゲージ固定のもとでの球面上の特異点とみることもできます。この特異点は、自然な次元から1つ次元をあげた、それぞれ3次元、5次元のなかで一般化したDirac stringとなり、その終点がDiracおよびYang 単磁極となるのです。これら2次元、4次元球面上の赤道はカイラル対称な部分空間として特徴付けられ、この赤道上での奇数次元の積分で定義されるベリー位相並びにチャーンサイモン積分は第一、第2チャーン数を整数のゲージ不定性としてのぞけば半整数値に量子化されることとなります。これがZ2量子化です。くわしくはまた!
断熱定理のところで説明したように量子系が時間的に変化しない定常状態にあり、かつ他の状態とエネルギーギャップをもって隔てられているとしましょう。ここでは小鳥が1わ入った鳥かごをイメージしてみます。この系を断熱定理の仮定を満たすようにゆっくり移動させ、最後にもとの位置に戻すことを考えましょう。鳥の入った鳥かごをそ〜っと2階までもっていってまたそーっと1階にある元の場所に戻すわけです。断熱定理によるとこの過程で量子系の状態は変化しないので系の量子状態はもとに戻ることとなります。禅問答のようですが、もとにもどるころはもどるのですが、実はすこし何かが変化する余地があるのです。それがなければわざわざ説明しませんよね、
ここで量子系の状態とは何かを少し考えてみましょう。量子系の状態とはある種のベクトルとみなせますから高校で学んだ空間内の点を指定する位置ベクトルをイメージしてみましょう。ただ量子論ではベクトル自体に意味があるので、その向きは気にしないことにします。線分を空間の中に書いてベクトルとしたとき、線分の両端のどちらに矢印を書くかは気にしないというのです。さらにベクトルの大きさは色々あるの混乱をきたすので常に大きさ1のベクトルだけを考える事とします。これを量子論では状態は規格化されていると言います。さあどうでしょうか?量子論では状態が向きを気にしない長さ1のベクトルで指定されていて、断熱定理によると上記の過程(断熱過程)で状態がもとに戻ったとして、何かさらに変化する余地はあるとおもいますか??
賢明なかた(注意深い方)でしたらおわかりと思いますが、量子論ではベクトルの向きを気にしないといいましたからその向きが変わってしまう可能性があるのです。上記の3次元空間のベクトルの例では向きは −1(マイナス一)を書けることでいれかわりますが、その符号が断熱過程において変化する可能性があるというのです。一般の量子系では状態はベクトルはベクトルでも複素数を成分とするベクトルをかんがえますので、規格化しても絶対値が1の複素数、つまり位相だけ不定となりますが、ここでの断熱過程においては系がもとにもどってもこの位相は必ずしももとにもどらず、ある有限の位相変化が残ることがあります。この位相変化がベリー位相とよばれるもので、量子系の幾何学的位相と呼ばれるものの代表格とい考えられます。
ゲージ構造についてはまた後ほど、、
原子(アトム)とはギリシャ時代に物質をどんどん細かく分けていくとあるところで、これ以上は分けられないもの、分けてしまうと性質が変わってしてしまうものとして、観念的(哲学的)に考えられたものですが,量子力学の量子とはこれと類似のある何か基本的なを意味します。例として信号機の赤色の光を考えてみましょう。信号の出力を絞っていくとどんどん暗くなりますが、光を量子論的に考えるといくらでも暗くできるのではなく、限界があることとなります。赤色の光にはその基本的な単位つまり量子があるのです。この光の量子はプランクにより光量子仮説として、ある実験の解釈のために導入されましたが、現在では確固たる実験事実となっています。赤色の光を検出器で測りながらどんどん暗くするとあるところで、検出器は連続して光を検出しなくなり、ポツポツと不連続に出力を出すようになります。光の量子をフォトンといいますが、この領域の検出器はフォトンカウンターつまり光量子の数を数える計測器となるのです。
もう少し広く量子とはquantum jupm等と使われることからわかるように不連続性を意味します。光量子は1個、2個,3個と不連続な整数個しかありえないわけで光量子1.2個が観測されることはないのです。表題の断熱定理とはこの不連続性に関係します。物理的な系が時間的に変化しないある量子状態にあるとしましょう(定常状態といいます)。この状態は例えば光量子2個の状態のように他の量子状態(例えば光量子3個の状態)とは不連続にしか変化できないとします。外界からエネルギーをもらわないと他の定常状態に移動(遷移といいます)できないわけですが、不連続性に対応してこの状態の変化に必要なエネルギーは有限の大きさとなります。光量子1個分のエネルギーをもらわないと光量子が2個の状態から3個の状態には変化できないわけです。今、物理系は定常状態、つまり時間的に変化しない状態にあると仮定していますが、この系をゆっくり変化させることを考えてみましょう。できるだけそーーと、無限にゆっくりと変化させることを考えましょう。2個光量子の入った箱をゆっくり動かすようなものです。ここで動かすためには外界からエネルギーを注入しなければ成りませんが他の状態に移り変わるためには「量子」に対応するだけの有限の大きさのエネルギーが必要となることを思い出しましょう。ゆっくり動かすときゆっくりであればあるだけ外界からの外乱によるエネルギーの流入は少ないわけですから、量子に対応するエネルギーに比べてこの外乱のエネルギーを小さくすれば、つまりゆっくり動かせば系はほとんど移動に伴なう外乱の影響を受けないこととなります。つまり、「量子化された定常状態にある系は系を無限にゆっくり動かすとき状態が変化しない」こととなります。これがボルン、フォン・ノイマン等により定式化された断熱定理とよばれる主張です。ここで系が量子化されていることつまり他の状態と有限のエネルギーをもって分離されていることが重要です。物理的な考察では単に「ゆっくりと」というだけでは意味ある主張はできません何に対してゆっくりなのかを示さなければなりませんが、ここでは他の状態とのエネルギー差(ギャップといいます)を基準にして移動にともなう外乱のエネルギーを極めて小さくするというわけです。ギャップがあれば断熱定理が成立するのです。
量子論における確率解釈:粒子の運動は各時刻における粒子の場所を指定すれば完全に確定します。例として1次元的な運動をする粒子を考えてみましょう。たとえば、量子細線の中の粒子や塀の上を歩いている猫などを想像してみてください。このときは、横軸に時刻、縦軸に粒子の位置をプロットした紙に書いたグラフ、中学以来学んだグラフですね、これを書けば粒子の運動が決定されたことになります。このグラフのことを世界線とよびます。1次元の粒子の運動を決定する世界線は 1+1=2次元の時空間(紙の表面のことです)の中の曲線ということになります。実際の粒子は3次元空間の中にありますから世界線は3+1=4次元の中の曲線ということになります。この世界線を経路とすこし親しみをふくめて呼びましょう。 勿論古典的には粒子の運動する経路はNewtonの運動方程式に従う特定のものとなります。実際に実験、観測をするとその特定の経路が実現するというのが古典的な物理学の予言です。このような古典力学による記述はきわめて正確であり、日常生活における物ごとの記述においてその成立に関して疑うところは全くありません。(いまでは携帯電話に標準装備となりつつあるGPSの動作には相対論的補正が重要だとはよく知られたところですが、量子論的補正が日常生活で必要だとはいまのところ聞いたことはありません。) それにも関わらず古典論を包含すると考えられている量子力学による物理学は粒子の運動に対してもすこし異なった予言をします。量子力学によるとすべての可能な世界線をたどる事象は全て原理的には起こることがあり得ることになります。古典的には決して起こらないいわばとんでもない事象も原理的にはおきることを許容するのです。ただ、実際の実測、実験を行ったとき、その全ての経路(事象)はある特定の確率で観測されることを量子論は主張します。常識的には起こらない事象の起こる確率は極めて極めて低いならば、常識と矛盾しないわけです。猫がタイプライターをたたいてシェークスピア全集を全て書き出すこともそれこそ原理的には可能なはずですが、猫にベストセラー作家の座を奪われる心配をする作家がいないのと同様に、通常の設定では古典論の予言が外れることは無いわけです。
確率振幅の重ね合わせの原理:ある特定の事象(経路)が起こる確率は確率振幅とよばれるある複素量の絶対値の2乗で書けると量子論は主張します。さらに、量子論ではこの確率振幅に対して「重ね合わせの原理」が成立することを要求します。量子論における波動性とは基本的にこの重ね合わせの原理にその基礎をもちます。確率振幅が池の波や音波などと同じ波動だというのです。波動現象の最も際だった特徴は干渉が起こることにあります。最近某電機メーカーから消音タイプのヘッドホンが販売されています。騒音のひどいところでもそのヘッドホンを使うと聞きたい音楽だけが聞こえて、周りの騒音は消えてしまうと言う、一見魔法のようなヘッドホンです。(私も持ってました、今は、どこかにいってしまいましたが、、でも確かに効果ありました)。このヘッドホンは、外部の騒音と逆位相の音波を聴きたい音楽に重ね合わせて耳の近くで出力しているのです。(たぶん、)音の強度、つまり聞こえる音の大きさはそれぞれの音の大きさの和になるわけではなく、波動の振幅を重ね合わせてからつまり足しあわせてから(絶対値の)2乗をとったものがその大きさとなります。バネのエネルギーが伸びxの2乗(バネ定数kならkx^2/2)となるのと同じです。日常生活ではうるさいところで大声をさらに出されるともっとうるさくなるので、音の大きさがどんどん加えられるように感じますが、これはそれぞれの騒音が全く勝手な騒音だからです。(騒音ですから当然ですね)これを物理的には「コヒーレントでない」非干渉性の音と呼びます。このような音については振幅の重ね合わせから大きさの加法性が導かれます(簡単な三角関数の計算ですが、ここではこれ以上の説明はやめます)。某電機メーカーのヘッドホンからはこのような勝手な音でなく、可干渉性(過干渉ではなく)のコヒーレントな音が出ているはずです。これをかさねあわせると音の大きさは増えないで減る、つまり消音効果をもつのです。量子論では事象の生起確率が確率波の大きさ(つまり振幅の絶対値の2乗)となることをその基本原理と考えます。日常の生活での物事の生起確率を支配する確率振幅は可干渉性をもたず、コヒーレントでないので、例えば英語の試験で10点をとることと20点をとることは独立となって排反事象に関する確率の加法定理が成立します。つまり10点をとる確率が1割あって20点とる確率が2割あるなら、10点か20点を取る確率は3割になるわけです。騒音が積み重なってますますうるさくなるのと同じです。
すこし具体的に議論を進めると量子論によれば、ある可能な経路に対する確率振幅はexp(i 2pi S[経路]/ h) と書けると考えられています。ここでS[経路] はその仮想的な経路に関する作用積分と呼ばれる量で[エネルギー×時間]=[長さ×角運動量]の次元を持つ物理量です。解析力学を学んだことのある人は聞いたことがあるとおもいます。またここで出てきた h は量子論の基礎付けに多大な貢献をしたプランクにちなんで名付けられたプランク定数で量子論固有の唯一の定数です。この定数は先ほどの作用とおなじ[エネルギー×時間]の次元をもっていてMKS単位系やcgs単位系ではかると0.000とぜろが30個ぐらい続く程度に日常の生活感覚的にはとても小さな定数です。 exp[ i 2pi S] は複素指数関数と呼ばれる複素数の値をとる三角関数のような周期関数で引数のSに関して周期1の振動する関数です。ここで 1/h がMKS単位系で、つまり日常の現象に関してとても大きな数(逆数ですから、、)であることを考えると日常生活での経路がすこし変化したことによる作用積分の変化はMKS単位で大体1程度と考えられますから、1/h をかけ算した値はとても大きなものとなります。つまり日常生活を表す経路(世界線)のちょっとした変化、(例えば髪の毛がちょっと揺れたぐらい?)による確率振幅の変化はとてもとても激しいものとなります。実際に実験で観測される事象に関する確率振幅は似たような事象に関する確率振幅を重ね合わせたもので与えられますので、経路が少し変わったときの効果を取り込むとほとんど打ち消しあってしまうと考えられます。よって古典極限つまり h がとても小さいと見なせるような現象では経路がすこし変化しても作用は変化しないような経路だけが主たる寄与します。これは解析力学で学んだ最小作用の原理に他なりません。量子論をここで議論したような確率振幅の重ね合わせの原理に基づいて理解しすると、その古典極限からニュートンの運動方程式がリンゴの木から落ちるリンゴを観察しなくとも、論理的に導出できることになるのです。
重ね合わせの原理から経路積分へ:確率振幅がある種の波動で重ね合わせの原理がなりたつものであるとすると。特定の事象が起こる確率をあたえる確率振幅は可能な経路に対する確率振幅をすべて重ね合わせたものとなります。防波堤の中の波の高さを理解するには防波堤やそれ以外のいろいろなところから跳ね返ってきた波をすべて重ね合わせることが必要なことや、先ほどの消音ヘッドホンをかけたときに聞こえる消音化された音は、外部からの音とヘッドホンからの音を重ね合わせなければならないことと同じです。先ほど古典極限を説明するときには黙って使ってしまったぐらいにこれは波動の基本的性質です。経路積分とはこの確率振幅に関する重ね合わせの原理をすこし上等かつ形式的な表現として書き下したたものにすぎません。繰り返しますと、特定の事象が起こる確率振幅は「可能な全ての経路に関する確率振幅をすべて重ね合わせることで与えられる」のです。経路についての重ね合わせは足し算、それを区分積分法として連続に足し算するため「経路積分」とよぶのです。形式的には名前のとおり粒子の通過しうるすべての道(経路、Path )について総和をとる(積分する)ことにより得られた量(数)、ならびにその計算法を指します。
この経路積分は、最近は、多くの啓蒙書でも有名な R. Feynman によって発明された概念で、以上の議論も基本的にFeynmanによるものです[Link]。ここでご説明したように量子力学はこの概念にもとづいて構成すると非常に理解しやすいものとなります。またこのような経路に関して和をとる、つまり積分するという視点は現代の物理学ではとても重要な意味を持ちます。例えば、量子統計力学や多電子系の量子論、ベリー位相等幾何学的位相の議論では不可欠の理論的概念となります。これらに関してはまた節を変えてご説明したいと考えています。
Feynmanは冗談だけいってるわけでなく、ホントにえらい!!
解析力学によると古典的なニュートン方程式を導くラグランジュ関数は唯一ではなく、不定性があり、特に時間の全微分 dW/dt を加えても運動方程式は不変であることが知られています。量子力学をいわゆる経路積分により定式化する際、この時間の全微分の項は、やはり量子論の運動方程式であるシュレディンガー方程式には影響を与えませんが、波動関数の位相に付加的な位相として e^{iW(t)} として現れます。一般にはこの位相は物理系の履歴(経路)に依存することが特徴です。物理系の存在する空間が単連結である場合、この位相は物理的な影響を与えませんが、空間の構造がすこし複雑になるとこの項が量子干渉効果として、系の観測量に影響をあたえることとなります。このようなラグランジュ関数に対する付加的な項をトポロジカル項と呼びます。3次元空間中の特異点の集まりとしてのフラックスチューブ(太さ無限小のソレノイド)の存在等がある場合がその典型例となります。このときの付加的な位相はベリー位相として理解できます。この系での量子干渉効果はアハロノフ・ボーム効果として最初に理論的に予言され、超伝導体において実験的にも確認されました。また、この現象はいわゆる分数統計、分数量子ホール効果とも深い関連がありますが、それはまたの機会に、,
歴史的には、ラグランジュ関数の不定性という付加的な構造が量子化のもとでは、本質的な量子効果を生み出すトポロジカル項として理解されているのです。不思議ですね、、、
例えば、変圧器のなかにあるようなコイルを考えてみましょう。コイルに電流をながすとその中に電磁誘導で磁束が発生することはよく知られています。このとき発生する磁場はコイルのなかだけに存在してコイルからそとにはでないことに注意しましょう。
こんな設定で電子等、量子力学的な荷電粒子をこのコイルのそばを飛行させると磁場は全くないにも関わらずその効果をうけて例えば磁束の強さを変化させるとその大きさとともに周期的な変動が観測されるだろうというのがアハロノフとボームの予言です。磁場がないのにその効果を感じてしまうという、古典的には全く理解できない現象です。 古典的常識とはあまりにかけ離れた予言であったのでその真偽を疑うこともあったのですが、いまではこれは理論のおもちゃではなく、実際に観測されている不動の事実です。 このアハロノフ・ボーム効果はまさに量子力学的効果であり、われわれが興味を持っている幾何学的位相の重要かつおもしろい例として理解することができます。
まず、量子力学ならび量子力学に従う物理系においては複素数が本質的であり複素数は絶対値と位相に分けられることに注意しましょう。これだけわかれば、量子力学での位相の効果のどうしても取り除けない「本質的」部分が「幾何学的位相」であると言えます。
技術的には量子系における記述はある空間での演算子並びにある基底によるその行列要素を用いてなされます。そこでは種々の基底変換の自由度があり、それ に対応して複素量としての行列要素は変更を受けることに注意しましょう。この基底変換の自由度は完全に自由ですが、実際の量子系における古典的対応物のある物理現象はこの任 意の変換の自由度に影響を受けることは決してなく、不変な形で表現されなければなりません。数学的にはここでの(基底)変換に対応してある種のゲージ変換 が引き起こされることになるのですが、物理量はこのゲージ変換に対して不変であるというわけです。簡単な多くの場合、基底変換は行列要素の複素数としての 位相の変化をもたらします。古い量子力学の教科書等ではこの基底変換に伴って起こる位相変化は意味がないとの記述すらある1のです が、波動関数の位相なら何でもゲージ変換で完全に消去できるわけではなく、一見この勝手に変化する位相のなかにも決して無視できない物理的意義を持つ (少し拡張した意味で「ゲージ不変な」)ものがあり、それらを称して幾何学的位相と呼ぶのです。物性論における重要な概念である「量子力学的揺らぎ」、「量子干渉効果」その他、 いわゆる「量子効果」は最終的にはこの幾何学的位相として理解されることが多いのです。
この幾何学的位相が重要な寄与をする物理現象の典型例としては量子ホール効果、ベリー位相、アハロノフ・ボーム効果、分数統計粒子系などがあげられます。
1. Shiff, Quantum Mechanics
系がスピン1/2を持つとき、時間反転操作は複素共役をとるのみではすまず、スピン成分に関してある種の変換を要求します。これによって系の粒子数が奇数であれば全ての固有状態がクラマース縮退と呼ばれる本質的かつ追加の縮退度をもつことになります。ただし、全粒子数は保存するとしました。一般に量子系の記述には複素数がもちいられますが、このクラマース縮退を含む時、系の記述には四元数とよばれる新しい数が本質的な役割を果たすことがF. Dyson以来の研究で明らかとなりました(最近私もこの系のベリー接続に関して論文を書きました:参考文献)。量子ホール効果は系の時間反転を破ったときのトポロジカル秩序相の典型ですが、スピンを持ち込むことで時間反転対称なままでも類似のトポロジカル絶縁相が存在することがあきらかとなってきました。これが量子スピンホール相です。
[1]Y. Hatsugai, "Symmetry protected Z2-quantization and quaternionic Berry connection with Kramers degeneracy" [arXiv:9090.4831]