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よって、ぐるぐる回してもとに戻る過程はSO(3)の閉曲線をつくることとなります。一気に3次元だとちょっと難しいので2次元での回転つまりSO(2)から考えてみましょう。つまり地面の上に張り付いたアリやぎっくり腰で高さ方向の自由を失った人をかんがえるわけです。このときは、右回りに1回る操作と2回る操作、3回,4回、、、左回りに1回、2回、、、という操作はすべて別な操作で、連続に変形できないことはよく理解していただけると思います。このぐるぐる回す過程は3次元では2種類しか本質的にないというと皆さんおどろかれますか?さしあたっては、以下の絵でたのしんでみてください。
くわしくはまた。
From "Spinor and space-time" R. Penrose & Q.Rindler
時間反転な系特有のクラマース縮退は4元数(Quaternion)により自然に記述されます。[Y. Hatsugai in Focus issue in topological insulators :NJP] [論文直接]
一般に波動関数の位相の不定性はベリー接続に U(1) のゲージ構造をあたえますが、クラマース縮退のある場合、それはSp(1)ゲージ構造となります。また、ベリー接続の特異点を与える偶然縮退は一般にはDirac単磁極を与えますが、時間反転不変な場合、この特異点はYang のSU(2)単磁極となります。この例のように Sp(1)=SU(2)の同値性に基づくと時間反転不変な系でのベリー接続はSU(2)ゲージ理論の一つの実現をあたえることとなります。
ここで通常の複素数を四元数(Quertenion)に読み替えることにより、時間反転を持たない場合と持つ場合がアナロジーを越えてマップとして自然に読み替えられることとなります。ベリー接続のゲージ固定条件を考えることにより、非自明かつ自然な次元は複素数、四元数の基底の数により規定され、それぞれ2次元、4次元となります。対応して位相不変量はそれぞれ、2次元、4次元球面上の第1,第2チャーン数であたえられ、その量子化は1つ次元が下の赤道上、1次元閉曲線上の回転数、3次元球面上のポントリャーギン数の量子化に帰着しますが、これは特定のゲージ固定のもとでの球面上の特異点とみることもできます。この特異点は、自然な次元から1つ次元をあげた、それぞれ3次元、5次元のなかで一般化したDirac stringとなり、その終点がDiracおよびYang 単磁極となるのです。これら2次元、4次元球面上の赤道はカイラル対称な部分空間として特徴付けられ、この赤道上での奇数次元の積分で定義されるベリー位相並びにチャーンサイモン積分は第一、第2チャーン数を整数のゲージ不定性としてのぞけば半整数値に量子化されることとなります。これがZ2量子化です。くわしくはまた!
断熱定理のところで説明したように量子系が時間的に変化しない定常状態にあり、かつ他の状態とエネルギーギャップをもって隔てられているとしましょう。ここでは小鳥が1わ入った鳥かごをイメージしてみます。この系を断熱定理の仮定を満たすようにゆっくり移動させ、最後にもとの位置に戻すことを考えましょう。鳥の入った鳥かごをそ〜っと2階までもっていってまたそーっと1階にある元の場所に戻すわけです。断熱定理によるとこの過程で量子系の状態は変化しないので系の量子状態はもとに戻ることとなります。禅問答のようですが、もとにもどるころはもどるのですが、実はすこし何かが変化する余地があるのです。それがなければわざわざ説明しませんよね、
ここで量子系の状態とは何かを少し考えてみましょう。量子系の状態とはある種のベクトルとみなせますから高校で学んだ空間内の点を指定する位置ベクトルをイメージしてみましょう。ただ量子論ではベクトル自体に意味があるので、その向きは気にしないことにします。線分を空間の中に書いてベクトルとしたとき、線分の両端のどちらに矢印を書くかは気にしないというのです。さらにベクトルの大きさは色々あるの混乱をきたすので常に大きさ1のベクトルだけを考える事とします。これを量子論では状態は規格化されていると言います。さあどうでしょうか?量子論では状態が向きを気にしない長さ1のベクトルで指定されていて、断熱定理によると上記の過程(断熱過程)で状態がもとに戻ったとして、何かさらに変化する余地はあるとおもいますか??
賢明なかた(注意深い方)でしたらおわかりと思いますが、量子論ではベクトルの向きを気にしないといいましたからその向きが変わってしまう可能性があるのです。上記の3次元空間のベクトルの例では向きは −1(マイナス一)を書けることでいれかわりますが、その符号が断熱過程において変化する可能性があるというのです。一般の量子系では状態はベクトルはベクトルでも複素数を成分とするベクトルをかんがえますので、規格化しても絶対値が1の複素数、つまり位相だけ不定となりますが、ここでの断熱過程においては系がもとにもどってもこの位相は必ずしももとにもどらず、ある有限の位相変化が残ることがあります。この位相変化がベリー位相とよばれるもので、量子系の幾何学的位相と呼ばれるものの代表格とい考えられます。
ゲージ構造についてはまた後ほど、、
原子(アトム)とはギリシャ時代に物質をどんどん細かく分けていくとあるところで、これ以上は分けられないもの、分けてしまうと性質が変わってしてしまうものとして、観念的(哲学的)に考えられたものですが,量子力学の量子とはこれと類似のある何か基本的なを意味します。例として信号機の赤色の光を考えてみましょう。信号の出力を絞っていくとどんどん暗くなりますが、光を量子論的に考えるといくらでも暗くできるのではなく、限界があることとなります。赤色の光にはその基本的な単位つまり量子があるのです。この光の量子はプランクにより光量子仮説として、ある実験の解釈のために導入されましたが、現在では確固たる実験事実となっています。赤色の光を検出器で測りながらどんどん暗くするとあるところで、検出器は連続して光を検出しなくなり、ポツポツと不連続に出力を出すようになります。光の量子をフォトンといいますが、この領域の検出器はフォトンカウンターつまり光量子の数を数える計測器となるのです。
もう少し広く量子とはquantum jupm等と使われることからわかるように不連続性を意味します。光量子は1個、2個,3個と不連続な整数個しかありえないわけで光量子1.2個が観測されることはないのです。表題の断熱定理とはこの不連続性に関係します。物理的な系が時間的に変化しないある量子状態にあるとしましょう(定常状態といいます)。この状態は例えば光量子2個の状態のように他の量子状態(例えば光量子3個の状態)とは不連続にしか変化できないとします。外界からエネルギーをもらわないと他の定常状態に移動(遷移といいます)できないわけですが、不連続性に対応してこの状態の変化に必要なエネルギーは有限の大きさとなります。光量子1個分のエネルギーをもらわないと光量子が2個の状態から3個の状態には変化できないわけです。今、物理系は定常状態、つまり時間的に変化しない状態にあると仮定していますが、この系をゆっくり変化させることを考えてみましょう。できるだけそーーと、無限にゆっくりと変化させることを考えましょう。2個光量子の入った箱をゆっくり動かすようなものです。ここで動かすためには外界からエネルギーを注入しなければ成りませんが他の状態に移り変わるためには「量子」に対応するだけの有限の大きさのエネルギーが必要となることを思い出しましょう。ゆっくり動かすときゆっくりであればあるだけ外界からの外乱によるエネルギーの流入は少ないわけですから、量子に対応するエネルギーに比べてこの外乱のエネルギーを小さくすれば、つまりゆっくり動かせば系はほとんど移動に伴なう外乱の影響を受けないこととなります。つまり、「量子化された定常状態にある系は系を無限にゆっくり動かすとき状態が変化しない」こととなります。これがボルン、フォン・ノイマン等により定式化された断熱定理とよばれる主張です。ここで系が量子化されていることつまり他の状態と有限のエネルギーをもって分離されていることが重要です。物理的な考察では単に「ゆっくりと」というだけでは意味ある主張はできません何に対してゆっくりなのかを示さなければなりませんが、ここでは他の状態とのエネルギー差(ギャップといいます)を基準にして移動にともなう外乱のエネルギーを極めて小さくするというわけです。ギャップがあれば断熱定理が成立するのです。
グラフェンとは炭素原子が平面上で蜂の巣の形に規則的に整列したものですから、炭素原子が規則正しくならんだ絨毯のようなものです。もちろんこの 絨毯の大きさは有限ですが、電子間の距離を単位にしてはかれば十分に大きいので、無限に広がった規則的な原子の絨毯です。このグラフェンは別に低温にしな ければできないわけではなく、常温で作成されました。具体的にはscotch tape method (日本語ならセロテープ法) といわれる怪しげな(と当初はおもわれた)方法で実際につくられました(Novoselov, Geim 他)。常温ですから当然熱ゆらぎも無視できないはずですからグラフェンはきわめて安定な物質と考えられます。ところが理論的には古くから完全な2次元 固体は安定に存在できないと信じられていました。規則正しい周期的な構造が存在するためには、どこかで偶発的に生まれた乱れが全体に広がってしまわないことが必要ですが、2次元という低次元性の為、無限と思われるぐらいに大きな2次元結晶では、これらの勝手にうまれたゆらぎはどんどん増殖してめちゃくちゃな状態になってしまうと予想されていたのです。しかし、論より証拠とはこのことで、いくら理屈を言ったところで、現実に作ってみせたのですから、文句の言いようがありません。理屈の方がどこか間違っていたか、議論が不十分だったのです。
実際の単層のグラフェンは完全に真平らではなく、下の図のようにうねうねしていると考えられています。2次元は2次元でも3次元の中に埋め込まれた2次元系ですので、このようなことが可能なわけです。この「うねうね」構造はリップルと呼ばれ、単層グラフェン、特に基板等何かの上に乗っていないという意味で、free standing なグラフェンの特徴的構造と考えられています。今日では、グラフェンでは、2次元周期系ではあるものの、このような3次元方向の変形からくる余分な自由度がある種の熱浴として働き、2次元格子全体がめちゃくちゃになるのを防いでいると考えられています。さらにこのリップルはグラフェンの電子状態に関しては、ランダムゲージ場として働くとかんがえられており、グラフェンの物理をより一層興味深いものとしています。
事実は小説より奇なり(Fact is stranger than fiction)ではありませんが、現実は常識を時々そして大事なところで覆してくれます。物理屋たる者、定説をそのまま信じてはダメですね、ロシア人は確かにガンコでシツコイ!(Road to Stockholm がホントかどうかは別にして)
量子論における確率解釈:粒子の運動は各時刻における粒子の場所を指定すれば完全に確定します。例として1次元的な運動をする粒子を考えてみましょう。たとえば、量子細線の中の粒子や塀の上を歩いている猫などを想像してみてください。このときは、横軸に時刻、縦軸に粒子の位置をプロットした紙に書いたグラフ、中学以来学んだグラフですね、これを書けば粒子の運動が決定されたことになります。このグラフのことを世界線とよびます。1次元の粒子の運動を決定する世界線は 1+1=2次元の時空間(紙の表面のことです)の中の曲線ということになります。実際の粒子は3次元空間の中にありますから世界線は3+1=4次元の中の曲線ということになります。この世界線を経路とすこし親しみをふくめて呼びましょう。 勿論古典的には粒子の運動する経路はNewtonの運動方程式に従う特定のものとなります。実際に実験、観測をするとその特定の経路が実現するというのが古典的な物理学の予言です。このような古典力学による記述はきわめて正確であり、日常生活における物ごとの記述においてその成立に関して疑うところは全くありません。(いまでは携帯電話に標準装備となりつつあるGPSの動作には相対論的補正が重要だとはよく知られたところですが、量子論的補正が日常生活で必要だとはいまのところ聞いたことはありません。) それにも関わらず古典論を包含すると考えられている量子力学による物理学は粒子の運動に対してもすこし異なった予言をします。量子力学によるとすべての可能な世界線をたどる事象は全て原理的には起こることがあり得ることになります。古典的には決して起こらないいわばとんでもない事象も原理的にはおきることを許容するのです。ただ、実際の実測、実験を行ったとき、その全ての経路(事象)はある特定の確率で観測されることを量子論は主張します。常識的には起こらない事象の起こる確率は極めて極めて低いならば、常識と矛盾しないわけです。猫がタイプライターをたたいてシェークスピア全集を全て書き出すこともそれこそ原理的には可能なはずですが、猫にベストセラー作家の座を奪われる心配をする作家がいないのと同様に、通常の設定では古典論の予言が外れることは無いわけです。
確率振幅の重ね合わせの原理:ある特定の事象(経路)が起こる確率は確率振幅とよばれるある複素量の絶対値の2乗で書けると量子論は主張します。さらに、量子論ではこの確率振幅に対して「重ね合わせの原理」が成立することを要求します。量子論における波動性とは基本的にこの重ね合わせの原理にその基礎をもちます。確率振幅が池の波や音波などと同じ波動だというのです。波動現象の最も際だった特徴は干渉が起こることにあります。最近某電機メーカーから消音タイプのヘッドホンが販売されています。騒音のひどいところでもそのヘッドホンを使うと聞きたい音楽だけが聞こえて、周りの騒音は消えてしまうと言う、一見魔法のようなヘッドホンです。(私も持ってました、今は、どこかにいってしまいましたが、、でも確かに効果ありました)。このヘッドホンは、外部の騒音と逆位相の音波を聴きたい音楽に重ね合わせて耳の近くで出力しているのです。(たぶん、)音の強度、つまり聞こえる音の大きさはそれぞれの音の大きさの和になるわけではなく、波動の振幅を重ね合わせてからつまり足しあわせてから(絶対値の)2乗をとったものがその大きさとなります。バネのエネルギーが伸びxの2乗(バネ定数kならkx^2/2)となるのと同じです。日常生活ではうるさいところで大声をさらに出されるともっとうるさくなるので、音の大きさがどんどん加えられるように感じますが、これはそれぞれの騒音が全く勝手な騒音だからです。(騒音ですから当然ですね)これを物理的には「コヒーレントでない」非干渉性の音と呼びます。このような音については振幅の重ね合わせから大きさの加法性が導かれます(簡単な三角関数の計算ですが、ここではこれ以上の説明はやめます)。某電機メーカーのヘッドホンからはこのような勝手な音でなく、可干渉性(過干渉ではなく)のコヒーレントな音が出ているはずです。これをかさねあわせると音の大きさは増えないで減る、つまり消音効果をもつのです。量子論では事象の生起確率が確率波の大きさ(つまり振幅の絶対値の2乗)となることをその基本原理と考えます。日常の生活での物事の生起確率を支配する確率振幅は可干渉性をもたず、コヒーレントでないので、例えば英語の試験で10点をとることと20点をとることは独立となって排反事象に関する確率の加法定理が成立します。つまり10点をとる確率が1割あって20点とる確率が2割あるなら、10点か20点を取る確率は3割になるわけです。騒音が積み重なってますますうるさくなるのと同じです。
すこし具体的に議論を進めると量子論によれば、ある可能な経路に対する確率振幅はexp(i 2pi S[経路]/ h) と書けると考えられています。ここでS[経路] はその仮想的な経路に関する作用積分と呼ばれる量で[エネルギー×時間]=[長さ×角運動量]の次元を持つ物理量です。解析力学を学んだことのある人は聞いたことがあるとおもいます。またここで出てきた h は量子論の基礎付けに多大な貢献をしたプランクにちなんで名付けられたプランク定数で量子論固有の唯一の定数です。この定数は先ほどの作用とおなじ[エネルギー×時間]の次元をもっていてMKS単位系やcgs単位系ではかると0.000とぜろが30個ぐらい続く程度に日常の生活感覚的にはとても小さな定数です。 exp[ i 2pi S] は複素指数関数と呼ばれる複素数の値をとる三角関数のような周期関数で引数のSに関して周期1の振動する関数です。ここで 1/h がMKS単位系で、つまり日常の現象に関してとても大きな数(逆数ですから、、)であることを考えると日常生活での経路がすこし変化したことによる作用積分の変化はMKS単位で大体1程度と考えられますから、1/h をかけ算した値はとても大きなものとなります。つまり日常生活を表す経路(世界線)のちょっとした変化、(例えば髪の毛がちょっと揺れたぐらい?)による確率振幅の変化はとてもとても激しいものとなります。実際に実験で観測される事象に関する確率振幅は似たような事象に関する確率振幅を重ね合わせたもので与えられますので、経路が少し変わったときの効果を取り込むとほとんど打ち消しあってしまうと考えられます。よって古典極限つまり h がとても小さいと見なせるような現象では経路がすこし変化しても作用は変化しないような経路だけが主たる寄与します。これは解析力学で学んだ最小作用の原理に他なりません。量子論をここで議論したような確率振幅の重ね合わせの原理に基づいて理解しすると、その古典極限からニュートンの運動方程式がリンゴの木から落ちるリンゴを観察しなくとも、論理的に導出できることになるのです。
重ね合わせの原理から経路積分へ:確率振幅がある種の波動で重ね合わせの原理がなりたつものであるとすると。特定の事象が起こる確率をあたえる確率振幅は可能な経路に対する確率振幅をすべて重ね合わせたものとなります。防波堤の中の波の高さを理解するには防波堤やそれ以外のいろいろなところから跳ね返ってきた波をすべて重ね合わせることが必要なことや、先ほどの消音ヘッドホンをかけたときに聞こえる消音化された音は、外部からの音とヘッドホンからの音を重ね合わせなければならないことと同じです。先ほど古典極限を説明するときには黙って使ってしまったぐらいにこれは波動の基本的性質です。経路積分とはこの確率振幅に関する重ね合わせの原理をすこし上等かつ形式的な表現として書き下したたものにすぎません。繰り返しますと、特定の事象が起こる確率振幅は「可能な全ての経路に関する確率振幅をすべて重ね合わせることで与えられる」のです。経路についての重ね合わせは足し算、それを区分積分法として連続に足し算するため「経路積分」とよぶのです。形式的には名前のとおり粒子の通過しうるすべての道(経路、Path )について総和をとる(積分する)ことにより得られた量(数)、ならびにその計算法を指します。
この経路積分は、最近は、多くの啓蒙書でも有名な R. Feynman によって発明された概念で、以上の議論も基本的にFeynmanによるものです[Link]。ここでご説明したように量子力学はこの概念にもとづいて構成すると非常に理解しやすいものとなります。またこのような経路に関して和をとる、つまり積分するという視点は現代の物理学ではとても重要な意味を持ちます。例えば、量子統計力学や多電子系の量子論、ベリー位相等幾何学的位相の議論では不可欠の理論的概念となります。これらに関してはまた節を変えてご説明したいと考えています。
Feynmanは冗談だけいってるわけでなく、ホントにえらい!!
解析力学によると古典的なニュートン方程式を導くラグランジュ関数は唯一ではなく、不定性があり、特に時間の全微分 dW/dt を加えても運動方程式は不変であることが知られています。量子力学をいわゆる経路積分により定式化する際、この時間の全微分の項は、やはり量子論の運動方程式であるシュレディンガー方程式には影響を与えませんが、波動関数の位相に付加的な位相として e^{iW(t)} として現れます。一般にはこの位相は物理系の履歴(経路)に依存することが特徴です。物理系の存在する空間が単連結である場合、この位相は物理的な影響を与えませんが、空間の構造がすこし複雑になるとこの項が量子干渉効果として、系の観測量に影響をあたえることとなります。このようなラグランジュ関数に対する付加的な項をトポロジカル項と呼びます。3次元空間中の特異点の集まりとしてのフラックスチューブ(太さ無限小のソレノイド)の存在等がある場合がその典型例となります。このときの付加的な位相はベリー位相として理解できます。この系での量子干渉効果はアハロノフ・ボーム効果として最初に理論的に予言され、超伝導体において実験的にも確認されました。また、この現象はいわゆる分数統計、分数量子ホール効果とも深い関連がありますが、それはまたの機会に、,
歴史的には、ラグランジュ関数の不定性という付加的な構造が量子化のもとでは、本質的な量子効果を生み出すトポロジカル項として理解されているのです。不思議ですね、、、
例えば、変圧器のなかにあるようなコイルを考えてみましょう。コイルに電流をながすとその中に電磁誘導で磁束が発生することはよく知られています。このとき発生する磁場はコイルのなかだけに存在してコイルからそとにはでないことに注意しましょう。
こんな設定で電子等、量子力学的な荷電粒子をこのコイルのそばを飛行させると磁場は全くないにも関わらずその効果をうけて例えば磁束の強さを変化させるとその大きさとともに周期的な変動が観測されるだろうというのがアハロノフとボームの予言です。磁場がないのにその効果を感じてしまうという、古典的には全く理解できない現象です。 古典的常識とはあまりにかけ離れた予言であったのでその真偽を疑うこともあったのですが、いまではこれは理論のおもちゃではなく、実際に観測されている不動の事実です。 このアハロノフ・ボーム効果はまさに量子力学的効果であり、われわれが興味を持っている幾何学的位相の重要かつおもしろい例として理解することができます。
グラフェンってきいたことありますか?
物理関係の方は化学が苦手だったかもしれませんが、その中でも化学の代名詞であるかめのこ記号、すなわちベンゼン環からできている物質、炭素原子だけがあつまってできた物質がグラフェンです。グラフェンは、grapheneとつづりますが、これからおわかりのようにこの物質は芳香族の物質であり、一言でいえ ばベンゼン環が集まったものと考えることができます。
化学が得意の方にはおわかりとはおもいますが、芳香族の物質を分子量が小さいものからすこし列挙すれば、ベンゼン環1つのBenzen,ベンゼン環2つの Naphthalene,3つのanthracene, tetracene, pentacene,... と一連の物質群が続きます。グラフェン(graphene)とはその名の通りこの芳香族の2次元極限として2次元 sp2電子の炭素の2次元ネットワークが、2次元平面上無限につながったものなのです。またこれをくるりとまるめればカーボンナノチューブができあがります。
炭素は、単体の共有結合としてsp1, sp2, sp3 と多様な形態をとり、それぞれ、1次元、2次元、3次元の構造をつくりますが、これらに対応する自然な物質が、1次元のポリアセチレン、2次元のグラフェ ン、3次元のダイヤモンドと考えられますので、発見はおそかったのですが、極めて典型的な物質とさえいえます。
じつは、理科系の研究者であれば、どこかで「グラフェン」の名前ぐらいは聞いたことがあるような時代になってすでに久しいのですが、近年のグラフェンの研究 の爆発は、2005年のGeim,Novoselov等グループによる実験的合成とそこでの特異かつ極めて特徴的な量子ホール 効果の発見以来のものです。
このように構造としては基本的なのですが、 その電子構造はきわめて特異であって半導体なのですが、そのエネルギーギャップがゼロであるというゼロギャップ半導体と考えられます。通常の半導体、金属 中の電子はいわゆる有効質量近似によって質量が繰り込まれた量子的な自由粒子とかんがえられますが、ゼロギャップ半導体であるグラフェンではこれが成立せ ず有効理論はギャップレスのDirac 電子となります。Dirac の理論では負のエネルギーの電子が現象に現れないようにするため。負のエネルギー状態はすべて占有されていると考えました。これがDiracの海と呼ばれ るものですが、グラフェンの場合このDiracの海は占有された価電子バンドに他なりません。Dirac の議論は量子論を特殊相対論と整合的にするために考えられたものですので、Dirac 電子は相対論的な粒子です。その意味でグラフェンは物質中の(実は鉛筆中の)相対論的粒子と考えられます。これが近年の研究爆発の一つの理由です。個々の 興味深い物理現象に関してはまた節をかえてご説明したいと思います。
この数年グラフェンの会議で話をする機会が何度かあったのですが、その度に近年の研究状況を紹介する一つのデータとして、ネット上の論文cond-mat の検索機能findでその時点での過去1年間のタイトルにgrapheneを含む投稿論文数を検索したのですが、それは以下のようになっています。
89個(2006年),
269個(2007年),
504個(2008年)。
本日2009年に同じ検索をやってみると563個(2009年)と言うことですから、この数年は毎日1から2個はグラフェンと名のつく論文がネット上に挙げられているわけです。これを見ても、グラフェン関連の研究はまさに爆発的な状況にあることが見てとれるます。
振り返ると、この物質に関する研究は少なくともGeim等による実験的合成以前からあり、その特異な電子構造を指摘したWallaceの論文をはじめ、単 層のグラファイトとしていくつもの研究があることは思い出しておきたいとおもいます。ただしgrapheneという名前はありませんでした。うまい名前を つけることはやはり大事ですね、
一方、量子磁性体においては量子効果によりこの古典的フラストレーションと大きな残留エントロピーも解放されることが可能であり、ギャップを持つ縮退のない基底状態が実現し得ることとなるわけです。局所的な幾何学的フラストレーションにより古典的反強磁性秩序形成が強く妨げられるのに対して、量子効果による局所的なシングレット形成に伴うダイマ−液体、固体としての励起ギャップが有限である量子スピン液体相の形成はこの典型例と考えられます。
このように量子スピン液体を考えたとき、系を特徴づけるものは局所的なスピン配置としての秩序変数ではなく、局所的なフラストレーションを解放する量子的な局所オブジェクトとなります。隣接する量子スピンからなる局所的なシングレット対や4スピンからなるプラケットシングレットがその代表例です。これらの局所的な量子オブジェクトを基本とするある種の秩序相を「量子秩序」と呼んだとき、これらの相は物理系のパラメタ−の連続変形により、これらの量子オブジェクトを孤立させた自明な系と断熱的につながることが期待されるのです。これは通常の臨界点の物理が繰り込み操作により固定点の物理によって普遍的に記述されることに対比できるでしょう。励起にギャップをもつ量子スピン液体相においては繰り込み操作の代わりに断熱変形を対応させ、多種多彩な物質相における量子液体相を、孤立シングレット対からなるシングレットカバリング状態などのある種自明な量子相により普遍的に理解しようというわけです。通常の繰り込み操作では、臨界指数が繰り込み操作での不変量、特徴的な物理量であったのに対して、ここでの断熱過程においては、M.V.Berry の発見以来のベリー位相、特に時間反転対称性等により2つの値しか取り得ない Z2ベリー位相が不変量となり、局所的量子オブジェクトを特徴づけるある種の量子秩序変数となるのです。
磁性体をスピンの集まりと見てその絶対零度もしくは十分低温での性質を考えて見ましょう。
、物理的には許される対称性がその性質を大きく左右します。系が例えばイジング型の離散的な対称性しか持たないとき、十分低温もしくは量子効果が十分小さいときには、
まず、量子力学ならび量子力学に従う物理系においては複素数が本質的であり複素数は絶対値と位相に分けられることに注意しましょう。これだけわかれば、量子力学での位相の効果のどうしても取り除けない「本質的」部分が「幾何学的位相」であると言えます。
技術的には量子系における記述はある空間での演算子並びにある基底によるその行列要素を用いてなされます。そこでは種々の基底変換の自由度があり、それ に対応して複素量としての行列要素は変更を受けることに注意しましょう。この基底変換の自由度は完全に自由ですが、実際の量子系における古典的対応物のある物理現象はこの任 意の変換の自由度に影響を受けることは決してなく、不変な形で表現されなければなりません。数学的にはここでの(基底)変換に対応してある種のゲージ変換 が引き起こされることになるのですが、物理量はこのゲージ変換に対して不変であるというわけです。簡単な多くの場合、基底変換は行列要素の複素数としての 位相の変化をもたらします。古い量子力学の教科書等ではこの基底変換に伴って起こる位相変化は意味がないとの記述すらある1のです が、波動関数の位相なら何でもゲージ変換で完全に消去できるわけではなく、一見この勝手に変化する位相のなかにも決して無視できない物理的意義を持つ (少し拡張した意味で「ゲージ不変な」)ものがあり、それらを称して幾何学的位相と呼ぶのです。物性論における重要な概念である「量子力学的揺らぎ」、「量子干渉効果」その他、 いわゆる「量子効果」は最終的にはこの幾何学的位相として理解されることが多いのです。
この幾何学的位相が重要な寄与をする物理現象の典型例としては量子ホール効果、ベリー位相、アハロノフ・ボーム効果、分数統計粒子系などがあげられます。
1. Shiff, Quantum Mechanics
世の中には極めてたくさんのものつまり物質があり、それらはいろいろな形態をとっています。たとえば、水、炭酸ガス、シリコン、鉄などの物質が氷、水蒸気、ドライアイス、結晶、非結晶、磁石、等の形態をとっているわけです。これら物質の形態の違いをきちんと理解することが物性物理の基本であり、物質を用いた物質科学もこの作業なくしては近年のめざましい発展はあり得ないものでした。これら物質の形態は物理的には「相」として表現されます。水蒸気と氷は水という同じ物質ではあるがその「相」が異なるというわけです。
物理学は現代科学ですから「相」に対する(原理的には必ずしも定量的であることは必要でありませんが)科学的な記述法を必要とします。その科学 的記述の作業対象が「秩序変数」と呼ばれるものです。「秩序変数」を観察、考察することにより物質の相を判定するわけです。水の密度、鉄の磁石としての強 度(磁化)がこの秩序変数として使われています。たとえば、温度を変化させることで水の密度の変化を観察することが秩序変数の温度依存性を議論することと なります。ここである場所、ある時間での水の密度、鉄の磁化を議論することを局所的な秩序変数を考えるといいます。多くの場合物質の「相」を特定するため には、この局所的な秩序変数を考えることが重要です。(双対変換等、非局所的な理論的読み直しがこの局所的描像を使うために必要なことも時々あります。)
物理学、物性科学においては物質の「相」を特定することは物理系の対称性と密接な関係があります。現代の物理学においては対称性を用いて物質の相を区別す るといった方が適切です。気体である水蒸気では水分子は全くランダムに運動していると考えられますので、ある水の分子の近くを見たとき隣の水分子は特定の どこかに存在しやすいことはありません。つまりすべての方向は同等、一様です。一方、液体および固体の水を考えたときは、隣の水分子は全く無関係な位置に あるのではなくある秩序を持ってある方向に存在することは想像できると思います。つまり液体、固体の水の相においては方向の一様性が失われていると考えら れます。空間をある水分子の周りに回転させるという操作を考えたとき水蒸気はその操作で不変、つまり対称ですが、氷はその操作で不変でなく対称でないわけ です。水蒸気を球にたとえれば、氷や水は角がある箱だということになります。同じ水という物質がその温度が変化することでその対称性を変えるわけです。水 分子をたくさん集めたとき特定の方向が特別な意味を持つことはなく、どちらの方向も当然同等なはずです。その「同等性」が温度を変えるだけで、水分子のお 互いの相互作用により外力等を必要とせず、自発的に失われ特定の方向に隣の分子が居やすいという特別な意味が生まれるのです。これが「対称性の自発的破 れ」と呼ばれる現代物理学におけるもっとも基本的な概念の一つです。
より定量的な科学的議論においては、今の議論において、ある特定の 水分子の周りでは次の分子がどのあたりに居るのかを考えたことが極めて重要です。つまり局所的な密度としての秩序変数を用いて異なる場所における秩序変数 同士の関係、つまり相関により物質系の「相」を特定したわけです。ここに秩序変数として局所的なものを考えることの重要性が典型的に表れています。現在の 物理学においては、極めて多くの場合にこのような局所的秩序変数による相転移理論が広く用いられています。物理的にはこれらの「相」が変化する際の「相転 移」が重要かつ興味深い問題となります。「相転移」とは「相」が違うほど全く異なるもの同士が入れ替わるわけで、物質の応用、その機能性を考えたときに も、非常に大きな潜在的可能性を含む現象が「相転移」であるわけです。この相転移を対称性の破れの観点からみると、転移点の近傍では対称性の破れを規定す る局所的な規則が必ずしも常に満足されないという形で現れてきます。水蒸気が液化するぎりぎりの温度ではある水分子の周りに他の水分子が完全にランダムに あるわけではないが、水や、氷の場合ほどはっきりした方向の異方性を持つわけではない、といったこととなるわけです。この状況は相転移の転移点(臨界点) 近傍では秩序変数並びにその相関における局所的揺らぎが増大すると表現できます。ここでも秩序変数の局所性の重要さは見て取れると思います。
も ちろん非局所的な概念も現代の物理学においては登場しますが、どうやら認識論的にいっても非局所的な概念はわかりにくいらしく、その多くの場合、非局所的 な概念は、ある種の双対変換により局所的なものへ置き換えて理解されることが多いのです。特に場所と時間ごとに定まる「場の量」をその作業変数とする局所 場の理論の臨界現象の理論における大成功をその背景とし、局所的秩序変数を用いた「相」の概念および「相転移理論」は現代物理学における概念的基礎の大き な部分となっています。
それではここで説明した局所変数による「相」の分類は十分なのでしょうか?
実は近年の研究において量子系特に量子多体系においては新しい概念がどうしても必要であることがあきらかになりつつあります。これが量子液体相における新しい秩序概念です。これについては別な節でまたご説明しましょう。
気体という「相」においてはその構成粒子のあいだに特定の位置の相関がなく、固体は粒子同士が規則的に並ぶといった強い位置の相関によって特徴付けられます。液体はその中間程度の位置の相関を持った相であるといえます。このように古典的な物理としても液体は少々微妙な位置にあることにまず注意しましょう。
それでは現代科学がその基礎とする量子力学的な世界観にたって現在の物性科学を考えてみましょう。通常の生活においては量子力学によらず、 ニュートン以来の古典力学が十分正確であることに疑いはありません。これは十分高温(室温は物性論的には通常十分高温です)であれば量子論は古典論に帰着 することによります。水蒸気が氷になるように、量子的な系でも一般的な物質は高温では秩序を持たない対称性の高い相をとり、温度を下げていくに従って自発 的に対称性が破れた低温の秩序相へ相転移するのが基本的な振る舞いです。よく知られた例としては(量子的な)磁性体が高温での非磁性状態から低温の磁性状 態へ転移する磁気転移があります。また量子系固有の現象として特に有名な超伝導転移もその相転移としての性質は基本的にはここで議論した局所的な秩序変数 を用いた通常の対称性の破れとしてされます。ただし超伝導の場合の対称性のれははゲージ対称性の破れと呼ばれる極めて特徴的なものではあるのですが、ここ ではあまり強調しません)。通常の量子系は高温で対称性の高い相をとり低温で対称性が低い相へ転移するのが一般的なシナリオで、その転移は自発的対称性の 破れの概念により局所的秩序変数を用いた秩序形成の物理として一般的に理解されます。
ところが最近その秩序形成がきわめて起こりにくい系がいろい ろな意味で興味を集めています。量子系においては古典的な系における熱揺らぎだけでなく量子系固有の量子揺らぎが存在します。標語的にいえばハイゼンベル グの不確定性に対応する物理量の不確定性起因の揺らぎが存在すると考えればよいでしょう。特に1次元、2次元系といった低次元系においてはその低次元性と 量子性があいまって通常の秩序形成が大きく妨げられることがしばしば起こります。その典型例が分数量子ホール系におけるラフリン状態とよばれる多粒子状態 です。電子は電荷を持っていますのでその間にはクーロン斥力が働きます。よって電子集団を考えたときの振る舞いは電子の運動エネルギーとクーロン斥力の関 係により定まることとなります。簡単な考察から電子密度が高いと運動エネルギーがクーロン斥力より主な寄与をすることがわかり、実際に高密度の極限では電 子系は電子ガスとよばれる気体の相をとります。また電子密度が小さいときは運動エネルギーよりもクーロン斥力が主な寄与をあたえ、電子系はウィグナー結晶 とよばれる固体の相をとることが知られています。これらの特徴的な極限の密度以外の中間的な電子密度では複雑な相が現れる可能性があることは容易に想像で きるでしょう。
実際、電子を2次元の平面に閉じこめさらに磁場をかけたときには、この中間の電子密度においてさらにある特定の電子密度において は固体のような長距離の秩序は持たないが気体としての完全な一様性ももたず、近距離の密度密度相関のみを持つ「液体」状態が現れることが知られています。 これがラフリン状態とよばれるもので、標語的にはウィグナー結晶(固体)が量子効果で融解した「量子液体」であるということができます。この系は液体とい う少々わかりにくい微妙な相である一方具体的な波動関数が書き下されているため、多くの研究がなされこの系から非常に多くのそして驚くべきことを現代の物 性科学者は学びました。
たとえば電子は電荷eを持つフェルミ粒子なのですが、この分数量子ホール系において活躍する粒子(準粒子)はe/奇数と いった半端な電荷をもちさらにはその統計さえもフェルミ粒子とボーズ粒子の中間のものであるというのです。(この統計はFermionとBosonの中間 という意味でAnyonと呼ばれます)このようにラフリン状態は極めて特異で興味深い系であることはわかったのですが、その「相」としての特徴は「量子液 体」として固体でも液体でもないというどっちつかずの理解にとどまらざるを得なかったのです。
このような量子液体状態は例外的なのでしょうか?
振りかえってこの10年、20年の物性科学をふりかえると例外どころか、実は量子液体こそが物性科学の興味の中心であったとすらいえます。微妙によくわか らないものにこそ多くのミステリーが潜み、そして多くの知的興味をひいてきたのです。その典型例が高温超伝導体におけるいわゆるRVB状態です。これは和 訳すれば「共鳴結合ボンド状態」でしょうか。2次元反強磁性の秩序を持ったスピン系は強制的にホールをドープすることにより磁気秩序相としての固体が融解 して特異な「量子液体状態」をつくると考えられたのです。実際の高温超伝導体におけるこの状態の実現可能性に関しては百花総攬、人々によって意見が全く異 なり、軽々に結論はでないのですが、理論的にはその量子液体状態としての意義の大きさは明らかです。また古い問題でありかつまた最近興味が再燃しつつある フラストレートした磁性体の問題においても量子液体状態としての量子状態が重要であることは間違いありません。
近年の物性科学の進歩により、必ずしも対称性の破れを伴わないが極めて特徴的な物質相が存在することが明らかとなりました。歴史的にみて、その典 型例が量子ホール効果における種々の物質相です。2次元的に閉じこめられたお互いに斥力相互作用しあう電子群が磁場下に置かれたとき電子密度および磁場の 強度をいろいろと変化させると驚くほど多様な物質相が現れることが知られるに至りました。ところがその多くの物質相の間で古来用いられてきた局所的な秩序 変数により記述されるような対称性の違い、区別はその多くの場合全くなく、対称性的には同一の物質相として考えざるをえないのですが、明らかに一連の物質 相の性質は特徴的に異なり同一とはどうしてもいいがたいのです。そこで考えられたのがトポロジカル秩序といわれる新しい概念です。
トポロジカル 秩序とは局所秩序変数が局所場の場の理論にその起源をもつのに対応してWittenによるトポロジカルな場の理論において使われたいくつかの概念との類似 性を元にMITのX.-G.Wenにより初期の提案がなされたものです。たとえば、状態の縮退度が物理系の大域的な構造どのように依存するか等を相の特定 に使おうというわけです。近年私はよい広く、量子系固有の幾何学的位相を用いてトポロジカル秩序の概念を拡張し有効に利用する具体的手法を提案しいくつか の具体的試みを行っています。
振り返ってこの20年来の物性物理を考えるといくつもの新規な物質相が発見されてきましたが、真に興味深いのは、いわば未だによくわからない量子液体相であると考えられます。これら量子液体相においてこそ、幾何学的位相をもちいて拡張された新しい秩序概念としてのトポ ロジカル秩序が極めて有用なものとなると考えられるのです。これについては節を変えてまたご説明したいと思います。
量子液体はその名前にもあるように本質的に量子効果をその基盤とするものです。そう考えると幾何学的位相が量子系の本質的側面を記述していると見なしたと き、幾何学的位相により量子液体相を記述、特徴付けようとするのは極めて自然であるとすらいえます。量子的状態とは近年量子計算等の研究の進展で広く知ら れるに至りましたがその局所摂動に対する応答ですら局所的ではなく系全体に及びます。よって量子的波動関数を作業対象とする幾何学的位相を用いた相分類、 特徴付けを考えることは局所場の理論に基づく局所秩序変数に基づくこれまでの相分類、相転移理論とは本質的に異なるものとなります。
すこし細か くなりますが、幾何学的位相を用いた量子液体の特徴付けに関する私の研究をすこし紹介しましょう。量子液体では通常の秩序変数が使えないわけと何度もいい ましたが、では何を作業変数として物理をやればよいのでしょうか? 私は、この問いに対する答えとしてその作業変数として幾何学的位相を用いた「トポロジ カルな量」を用いることを提案し具体的なスキームを具体例とともに提示しています。ここで物理量といわず「量」といったのは通常の古典的対応物の存在する 物理量はエルミート演算子に対応するわけですが、ここでの「トポロジカルな量」は演算子としての対応物を持たないからです。この理論では、エルミート演算 子ではなく、ベリー位相の議論の際に用いられたベクトルポテンシャルを一般化したベリー接続と呼ばれるものを基本的作業変数として議論を進めます。その 際、系の特徴付けを行うためには密度、磁化、等の様な連続量を使うこともできますが、ここでの理論では「量子化」された「トポロジカルな量」を構成するこ とを目指します。量子化された量をもちいれば相の分類が明確であることは明らかでしょう。これを用いると古典的秩序変数とは異なるトポロジカルな秩序変数 を構成することもできるのです。量子液体相では本質的な局所的な秩序変数は存在しないと繰り返してきましたがこの古典的対応物を持たない量を用いることで 量子液体相に対するトポロジカルな局所的秩序変数を構成することができるのです。最近その一般論をつくるとともに重要ないくつかの例であるフラストレート したスピン系、2量体(ダイマー)化した電子系に関して具体的な適用結果を示しました。
量子ホール効果とは文字どおりホール伝導度(注)が量子化される現象でその実験的発見に対してK.V.Klitzingにノーベル賞が、分数量子ホール効果に関連する分数励起の理論的、実験的発見に対して、Laughlin-Stormer-Tsuiらに対して2つ目のノーベル賞があたえられています。驚くべきはその精度でそれが6桁以上の精度をもつというのです。
伝導度ですから電流/電圧なわけで電流と電圧をはかって
34.51231 / 17.25616=1.999999...、
67.88631 / 22.62876=3.000001
となったら 「これは普通でない何かがある」、というわけです。こんな風に整数の値にホール伝導度が極めて近くなる現象を 整数量子ホール効果といい、ある場合には、この値が
14.512 / 43.535 = 0.3333 .等
と 1/ 奇数 に極めて近くなるときを分数量子ホール効果といいます。この現象の特異なところは、結果がとてもきれいな数になるので一見して何かの物理量を摂動論とか ○×近似で計算するという 定量的なだけの議論では 不十分なことにあります。つまりこの現象は、何らかの形で整数がらみの理論がその裏にあることを 示唆していると考えるのが自然でしょう。 実際、量子ホール効果とは系の細部に依存しない 境界が何個あるか、どんな風につながってるかといった物理系の位相的性質 にのみ依存した形で理論としてきれいにまとまり、それが ある意味で現実にも実験として観測にかかっているある意味で極めてラッキーな現象なのです。
(注)ホール伝導度:ある物理系に垂直に磁場 をかけ、さらに電流をその磁場に対して垂直にかけたとき、磁場と電流の両方に垂直な方向に発生する電圧を観測したとき電流/電圧の値をホール伝導度といい ます。古典的にはローレンツ力で説明できそうですが、その量子化については古典論では説明できません。量子力学的考察が必須なのです。