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初貝 安弘
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Web 記事 - 物理学が大事にするもの(大学新入生に向けて)

物理学が大事にするもの(大学新入生に向けて)

カテゴリ : 
その他:高校生、学部学生向け
執筆 : 
hatsugai 2010-3-10 12:37

皆さんは物理学に対して色々なイメージを持っていると思いますが、この機会に物理学が大事にしてきたものについて、少し説明してみたいと思います。物理学の研究者には多くのタイプがありますから、「これ」と一つだけをとり上げることは簡単ではありませんが,「普遍性」(英語ではUniversalityと呼びます) は物理学の多くの分野にわたって最も重要な概念の一つであることは間違いありません。文字通りの意味では広く遍く(あまねく)存在する概念ということです。自然科学とは自然を科学的手法で理解する営みで、物理学、化学、生物学,材料科学などがその代表的なものです。これらの学問はお互いに必ずしも排他的な関係にあるわけではなく、ある研究は物理学と化学の両面をもつなどということも珍しくありません。物理化学、生物物理学等という表現はそれをわかりやすく示しています。にも関わらず物理学がとりわけ特に大事にしている概念が「普遍性」です。これについて以下詳しく議論しましょう。

「普遍性」(Universality)という言葉は説明しましたが、ある意味で対極的な概念が「多様性」(diversity)です。科学には博物学的側面が必ずありますから、科学的研究活動においては、多くの種々雑多な対象を集め、それぞれの学問の手法で記述することから学問は始まります。対象の多様性を追求し、その中で興味深いもの、役に立つものなどを種々の観点から追い求めるのです。対象の多様性を楽しむわけです。自然科学の中でも、材料科学、薬学等ではこの多様性が本質的に重要でしょう。もちろん、物理学も自然界の中の種々の対象を記述するわけですから多様性ももちろん重要ですが、物理学の特徴は、多種多様な対象の中に多様性を楽しむだけでなく普遍的な性質を見出すことにあります。物理学は普遍性を極限までに追求する学問とも言えるでしょう。

では、具体的には普遍性とは何を指すのでしょうか?皆さんは大学に入るとすぐに物理学Aという科目で「質点の力学」を学びます。高校でも質点の力学は学んでいるでしょうから、馴染み深い科目といえるでしょう。実は、この質点の力学は普遍性が最もわかり易い形で現れた分野ということができます。この質点とはなんでしょうか?点ですから大きさはありません。点であってかつ質量はある「モノ」(object)を質点と呼びます。もちろん、大きさはなく質量だけをもつものなんて現実の世界にはひとつもありません。では質点の力学は現実に存在しないものの力学を扱うナンセンスな学問なのでしょうか?そんなことをいうと「いろいろなものの運動は近似的に質点として扱えるんだよ」という声が聞こえてきそうです。文字通りの意味では、全くそのとおりですが、普遍性を最重要と考える物理学としては、それだけでは本質的に大事な点を全く理解していないことになります。

自然界の力学的な運動を例として考えたとき、そこには多種多様な対象の種々の運動があることに注意しましょう。野球のボールの運動、自転車の運動、そして原子、電子,原子核の運動、また、地球の太陽周りの運動、銀河の運動、宇宙全体の運動もすべて物理学が対象とする力学運動です。これら全く異なる運動が、質点の力学として共通して捉えることにより、普遍的に理解することができるのです。ボールの色、原子の種類、銀河の形、含む星の数等をすべて切り捨て、対象の個性としては唯一の「質量」のみを取り出したとき、これらの異なる対象の力学的運動は「質点とそれに働く力」で記述される共通のニュートンの運動法則に従うと考えることができるのです。全く異なる自然の中に、質点としての「質量」だけを対象の個性として、普遍的な運動の原理を見いだすわけです。これが物理学の大事にする普遍性です。

一見似ていますが,普遍性を大切にする立場からは、質量以外の個性を切り捨てる過程は「近似」ではなく「情報の縮約」と呼びます。これは個々の現象において何が大切なのかを見極める最も大切な過程です。物理学は運動方程式の解き方を学ぶ学問ではなく、自然界の現象を如何に記述するかを大事にする学問なのです。勿論、情報の縮約の過程は決して自明な過程ではありません。現象において何が重要なのかを正確に見極めることが必要な困難な過程です。現在の物理学においては、この「情報の縮約」のための方法論も、必ずしも万能ではありませんが,いくつも開発されています。ここでは「繰り込み」と呼ばれる概念がそのひとつの例であることを注意しておきます。

この情報の縮約の過程で、その物理学的認識に関する適用限界も自ずと明らかとなります。力学の例で言えば運動法則に関して適用限界があるのです。個々の物理学的法則には、それぞれ、時間スケール、エネルギースケール、空間スケール等に関して適用すべき領域があるのです。「何だ、近似か」などと考えてはいけません。適切なスケール、これを階層と呼べば、階層ごとに適切な物理法則を見出し、その階層をつなぐことが物理学の手法であり、物理学的な自然認識なのです。ニュートン力学は光速に近い運動には適用できず、相対論による記述が必要であること、また原子、電子といったミクロな世界の記述では量子論的記述が必要なことを、皆さんもどこかで聞いたことがあると思います。しかし、現在でもニュートン力学の重要性は失われるどころか、ますます多様な現象に適用されていることは皆さんもご存知でしょう。日本の新幹線や地下鉄があれだけ正確で、自立型のロボットや自動化された工場の生産設備はすべてニュートン力学の完全な支配化にあります。たとえ、極微の世界の運動法則としての、究極の理論が完成したとしても階層的認識に基づく、ニュートン力学他、各階層の物理法則の意義は失われることはありません。電車の動きに量子論を適用することは無意味であるだけでなく、量子論は電車や飛行機の運動の記述には全く無力なのです。

スペースもつきましたので続きは物理学の講義でということにしますが、階層的な物理学的認識の意義と物理学における普遍性の重要性に気づいてもらえれば幸いです。物理学はあれこれ計算する学問ではなく、とことんまで考える学問なのです。
 

 

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